- 反戦・反核映画第4弾は黒澤明監督作品!
- おおまかなストーリー
- 映画の感想
- ➀原水爆への恐怖に慄く老人の三船さんの鬼気迫る演技!
- ②現在見ると地震大国に住む自分のことを考える
- この映画のエピソード
- ➀作曲家の早坂文雄さんの何気ない一言がきっかけだった
- ②早坂文雄さんの遺作となる
- ③当初は「死の灰」の仮題で製作が進められた
- ④興行的には失敗に終わった
反戦・反核映画第4弾は黒澤明監督作品!
黒澤明監督の「生きものの記録」
(1955年)です!
(メークアップで老け役になった主演の三船敏郎さん)
思えませんが、内容はこのシリーズの
「ひろしま」や「原爆の子」のように
ちょっと変わった形で伝える作品になっています
それではストーリーから
おおまかなストーリー
工場経営者の中島(三船敏郎)は
原水爆への恐怖心から逃れようと
地下家屋の建設をしようとしたり
ブラジルへの移住を計画して大金を使い
家族に迷惑をかけていたため
家族から家庭裁判所に申し立てをされた
裁判は家族からの申し立てが認められたが
中島は原水爆への恐怖が消えず
一家揃ってのブラジル移住を諦めきれず
家族に懇願する
果たして中島家はブラジルへ移住するのか
日本に残って恐怖とともに生きるのか
(中島家が集まっているシーン)
映画の感想
➀原水爆への恐怖に慄く老人の三船さんの鬼気迫る演技!
原水爆への恐怖に慄き
ブラジル移住を画策して奔走する
老人役の三船さんの演技が
真に迫っていて凄みを感じます
老けメイクをしてやや腰を屈めつつ
目の焦点が常に定まっていないようで
終始扇子を仰いで落ち着かない様子で
原水爆への不安に憑りつかれている老人
というキャラクターをうまく
作り上げていました
俳優さんは台本をもらって台詞を喋れば
それでよしという商売ではなく
この映画で言えば扇子という小道具を
使って主人公の心理状態を表したり
役作りにあたっては工夫が必要な
クリエイティブなお仕事だということを
思い出させられました
撮影されたのが夏だったことを
うまく利用しましたね
②現在見ると地震大国に住む自分のことを考える
映画のなかで中村信郎さんは言います
「あの男(三船さん)を見ていると
狂っているのはあの男なのか
こんな時勢に正気でいられる
われわれがおかしいのか」と
私はこの映画をいま見たところでは
地震が頻発している最近のことを思うと
いつ大災害が起きてもおかしくないのに
よく平常心を保って生きていられるなぁと
しかもその揺れる大地の上には
原子力発電所がいくつも建っています
第二の原発事故がいつ起きても
おかしくない状態に常にさらされています
空からも危険がいっぱいあります
これまでミサイルが日本付近や
日本上空に何発も飛んできています
それがもし間違って日本列島に落ちたら?
ということも考えられます
それでも私たちは怯えることなく
日常生活を淡々と送っています
私たちはよく平気で暮らしているなと
そんなことを考えられずにはいられませんでした
この映画は1954年にアメリカが
太平洋上で水爆実験をやって
日本の漁船「第五福竜丸」の船員が
被爆したという学校の歴史の授業でも習う
事件を端に発していて
映画の制作時や公開時にはそのことを
意識して作られ、見られた作品だったかと
想像しますが、もう何十年も年月が
経ったいまとなっては受けて次第で
核のことはもちろん、私のように
ほかにも地球上に脅威がある限り
そのことに頭のなかで変換されて
見る人を圧倒させることのできる
普遍的なテーマを扱った作品だと思います
すごい作品はいつまでも色あせないですね
この映画のエピソード
➀作曲家の早坂文雄さんの何気ない一言がきっかけだった
この「生きものの記録」の製作は
「七人の侍」の製作中に作曲家の
早坂文雄さんが「こう生命をおびやかされちゃ
仕事は出来ないねぇ」と言ったことが
きっかけとなりました
このように言われた黒澤監督は
以下のように回想しています
早坂は大変な病弱でいつも
死に直面しているような体だったし
(中略)その彼がビキニの爆発の
ニュースを聞いて、こういうことを言う
僕はドキッとしたね
次に会った時、僕が、おい、あれをやるぜ
と言ったら、早坂は大変なことだよ
と驚いていた
②早坂文雄さんの遺作となる
重要なシーンの撮影中に早坂さんは
帰らぬ人となりました
黒澤監督は悲しさのあまりそのシーンや
ラストシーンで力が出なくて
満足していないということを語っています
私は十分にいいシーンだと思ったのですが
監督にしかわからないものがあるのでしょうね
それに黒澤監督は完璧主義で有名ですし
この作品が早坂文雄さんの遺作となり
冒頭のクレジットでも「遺作」との
表記が出てきます
③当初は「死の灰」の仮題で製作が進められた
この映画は当初は「死の灰」という
仮題で撮影が進められました
しかしこの仮題を嫌がった黒澤監督が
のちに「生きものの記録」と改題し
正式なタイトルとして公開しました
タイトル変更はよかったと思います
「死の灰」ではストレートすぎて
恐怖感が強くなってしまいます
④興行的には失敗に終わった
しかしいざ映画が公開されると
不入りという結果に終わってしまったそうです
「原爆の子」や「ゴジラ」はヒットしたのに
どうしてこの映画は当たらなかったのでしょう
私の想像するところでは
シナリオの冒頭に書かれているという
製作意図が物語っているような気がします
この映画は水爆の脅威を描いている
しかしそれをセンセーショナルに
描こうとは思っていない
ある1人の老人を通してこの問題を
すべての人が自分自身の問題として
考えてくれるように描きたいのである
引用文の通りの作りになっています
原水爆の問題を他人事や
過去のこととしてではなく
自分の問題だということを
突きつけられるような映画なのです
「原爆の子」には希望がありましたし
「ゴジラ」は怪獣が出てきて
目新しさもあって人々の興味を引いたのでしょう
しかし「生きものの記録」には
そのどちらもなく陰鬱な映画です(笑)
第五福竜丸の事件から何十年も経った
現在の人が見るのでは少し
客観的に見ることもできなくはないですが
事件の記憶が新しい当時の人にとっては
この映画を見るのはつらい感じがして
足が向かなかったのではないか
そんなことを想像します
というわけで「生きものの記録」の
紹介はここで終わりです
次回で終了となります