昭和寅次郎の昭和レトロブログ

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昭和女優ファイル大映編②京マチ子(グランプリ・ラッシュ時代)~グランプリ女優と呼ばれて~

 

今年生誕100年を迎えた昭和の大女優

京マチ子さんの第2回目の記事です

 

shouwatorajirou.com

 

京マチ子プロフィール

 

映画「羅生門」より三船敏郎

 

女優としての前途に不安を感じていた矢先

黒澤明監督の「羅生門」に

森雅之の旅の武士の妻で、三船敏郎

山賊・多襄丸に夫の目の前で犯される

真砂の役で起用される

 

(映画「羅生門」より)

 

黒澤明監督「羅生門」の役を得る

 

この映画に何としても出たかった彼女は

メイクアップ・テストの日に

眉をきれいにそり落として監督の前に出た

 

黒澤監督は最初、原節子を考え

大映が推薦した京マチ子には

若干のためらいがあったが

眉をさっさと剃り落とすという役に対する

理解の早さにためらいは一瞬にして消え

彼女の起用を決定したという

 

先の「痴人の愛」は原作が

戦前のものであるにもかかわらず

彼女の演じた役のタイプはまさに戦後的な

解放された女であるとみられたが

羅生門」での彼女の役もまた

王朝時代を背景にして大正時代に書かれた

小説の女主人公であるにもかかわらず

戦後だからこそはじめて表現できる

新しいタイプの女であった

 

自己の主張をとことん臆面もなく主張する

女であり、男の言いなりになるどころか

男を真っ向から罵って引きずり回す女である

 

そして彼女のダンスで鍛えたバネのきいた肉体は

つねに全力で演技することを要求する

黒澤の演出によってスポーツマンのように

力強く動き、美しい容姿がその激しい

動きによってこれまでの日本的な美人の

概念からは大きくはみ出した新しい

魅力的な女性像を作り上げた

 

「偽れる盛装」で気迫ある演技を見せる

 

火の鳥」に長谷川一夫と共演したあと

今度は吉村公三郎監督の「偽れる盛装」

(1950年)に主演

 

これも彼女の演技力を一段と人々に

認めさせる作品となった

 

戦前に山田五十鈴がオモチャという芸者を

主演した溝口健二監督の「祇園の姉妹

(1936年)の戦後版と言ってもよく

京マチ子扮する京都・宮川町の芸者・君蝶は

金儲けのためには男を騙して手玉に取るのが

自分たちの職業であると割り切って

猛烈に張り切ってサービスするが

客が落ち目になるとすぐ見捨てて

顧みない女である

 

しかし金のことしか頭にない嫌味な

女かというと決してそれだけの女ではない

 

ひたむきに役にぶつかってゆく懸命な

その表情は彼女の信念がただの金儲け以上の

すなわち男に弄ばれる職業であることを

いさぎよしよせず、むしろ男たちを

乗り越えてやろうとしている女の意地の

あらわれであることを示し

一種の気迫を感じさせて感動的で

彼女の体当たり的熱演は終始スクリーンに

躍動して見事であった

 

この作品と「羅生門」の演技で彼女は

1950年度毎日映画コンクールの女優賞を受賞

 

羅生門」が海外の映画賞を次々と受賞

 

大女優としての地位を

早くも決定づけるとともに

1951年のヴェネツィア国際映画祭

羅生門」がグランプリを受賞するにおよび

彼女の名は国際的にも知られるようになる

 

同年は松竹と同時公開の吉村公三郎監督

「自由学校」にアプレ娘ユリの役で

松竹版「自由学校」の淡島千景と競演

木村恵吾監督「牝犬」に志村喬演扮する

実直な中年サラリーマンを豊満な肉体の

魅力で引きずり回すレビューの踊子を熱演

 

吉村公三郎監督には引き続き起用され

源氏物語」に淡路の上の役で光源氏

長谷川一夫と二度目の共演

木村恵吾監督ともコンビを続け「馬喰一代」

(1951年)では三船敏郎と再度の共演で

荒っぽい北海道の馬喰に想いを寄せる

酌婦を熱演し、人気も急上昇

名実ともに大映のトップ女優となり

1951年度のアカデミー賞で「羅生門」が

最優秀外国語映画賞を受賞

彼女の国際的声価はさらに高まった

 

大映とは年間5本の契約で。同社としては

若手のスター女優が不足していたことから

いきおい彼女の負担は重くなったが

秘蔵っ子スターではあり、また彼女の自身の

作品本位という要求も入れて無理な出演は

強制せずほぼ年間5、6本のペースで起用する

 

その大部分は興行価値の安全性を狙った

メロドラマだったが、3、4本に1本は熱演型の

彼女の個性が発揮できるような作品を企画

 

木村恵吾監督の「美女と盗賊」(1952年)では

森雅之三國連太郎を相手役に平安末期の

盗賊団の女頭目を力演

 

芥川龍之介の「群盗」を原作にした

羅生門」の二番煎じだったが

彼女の野性的な魅力はよく出ていた

 

私生活は地味だった

 

スクリーンのうえでは依然として肉体派

官能派女優というレッテルが

つきまとっていたが私生活は対照的に

浮いた噂ひとつなく、自ら戦前派と称し

地味そのものだった

 

趣味も映画、読書に海釣りとあって

およそ女優らしくない女優といわれ

そのうえ演技に対する取り組み方も

いじらしいまでにひたむきで真摯という

姿勢を崩さず、1953年には日本の

巨匠監督に相次いで起用された

 

溝口健二監督「雨月物語

成瀬巳喜男監督「あにいもうちと」

衣笠貞之助監督「地獄門」という

いずれも秀作となった3本の作品に主演

演技歴に輝かしい1ページを加える

 

雨月物語」の幽霊役で独特の存在感を見せる

 

雨月物語」は上田秋成の『雨月物語

9話のうち『蛇性の淫』と『浅茅が宿』の

2話をまとめた川口松太郎の小説を原作に

戦国時代を背景に戦争によって欲望を

掻き立てられた人間の悲劇を描いたもので

彼女は焼物を売りに旅に出た陶工が

誘いこまれる幽霊屋敷の女主人で

織田信長に滅ぼされた武士一族の

若い美貌の死霊を演じ、出演場面は

あまり多くはないが、この映画を

世界的な名作と言われるようにした

幽玄でしかもエロティシズムの漂う

美しさを持って形象化する面に

大きく貢献した

 

(映画「雨月物語」より森雅之と)

 

あにいもうと」で森雅之と荒々しい演技を見せる

 

あにいもうと」は室生犀生の

原作による木村荘十二監督の

1936年作のリメイクで

田舎から東京に奉公に出て

アバズレとなり妊娠して帰った

娘をめぐる肉親愛の相剋を描いた

作品で彼女は女だてらに罵詈雑言の

限りをつくして兄貴とつかみ合いの

喧嘩をする妹を演じた

 

(映画「あにいもうと」より、左から久我美子森雅之浦辺粂子と)

 

身を持ちくずした女の役は「馬喰一代」

でも経験済みだったが、ここでは

成瀬巳喜男監督のきめ細かな演出のもと

こうした役柄を完成させた

 

「地獄門」では珍しくお淑やかな女性を好演

 

「地獄門」は菊池寛の『袈裟と盛遠』を

原作にした王朝絵巻で大映のカラー映画

第一作となった

 

(映画「地獄門」より長谷川一夫と)

 

彼女は長谷川一夫扮する武将・盛遠に

懸想され、武力を持って自分のものに

しようとする彼に対して夫を殺したら

意に従うと偽り、その身代わりとなって

殺される侍の妻・袈裟を演じた

 

王朝風の豪奢な衣装をまとって

おっとりと構えているといったヒロインで

あまり演技の見せ場はなかったが

息をのむような華麗なこの大作に

ふさわしい美しさを見せた

 

出演作が国際映画祭で相次いでグランプリを受賞!

 

雨月物語」は1953年の第14回

ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞に

選ばれこの年は金獅子賞が該当なし

だったため事実上のグランプリとなり

また「地獄門」は翌年のカンヌ映画祭

グランプリ、アカデミー賞で外国語

映画賞を受賞し、彼女はグランプリ女優と

呼ばれ、自身も全米映画批評委員会の

特別賞を「地獄門」の演技で受賞

国際女優としての地位を決定づけた

 

参照:

キネマ旬報社『日本映画俳優全集・女優編』

 

なおこの記事は続編に続きます

 

 

 

 

 

地獄門

地獄門

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