昭和寅次郎の昭和レトロブログ

昭和を知らない世代による昭和レトロ、昭和芸能のブログです!

美しいカラー映像や衣装のきらびやかさに目が眩む!時代劇(平安編④)「地獄門」

 

平安時代劇第4弾はまたしてもグラン・プリ受賞作

 

平安時代劇紹介シリーズ第4弾は

前回紹介した黒澤明監督の「羅生門」に続き

またしても国際映画祭グランプリ受賞作

衣笠貞之助監督の「地獄門」(1953年)です!

 

 

(「地獄門」より。京マチ子さん(左)と長谷川一夫さん(右))

 

おおまかなストーリー

 

舞台は12世紀の日本

平清盛厳島詣に出かけている

留守を狙って謀反から御所は夜襲を受ける

 

平康忠は上皇とその御妹を救うため

側近の待女から身代わりを立てて

敵の目をそちらにそらして

上皇らを救出した

 

院の身代わりとなった袈裟(京マチ子)を

護った盛遠(長谷川一夫)は

彼女の美しさに心奪われる

 

しかし袈裟は人妻だった

許されない恋だが盛遠は

それでも諦めきれず

袈裟にアプローチを続けるが…

 

映画の感想

➀美しいカラー映像や俳優さんの衣装に目が眩む!

 

この「地獄門」は前回紹介した

黒澤明監督の「羅生門」(1950年)が

ヴェネツィア国際映画祭グラン・プリ

アカデミー外国語映画賞(現・国際長編映画賞)

を受賞したことに刺激を受けて

また海外で通用する作品を!

とあらかじめ海外の人に見てもらうことを

前提に大映が製作しました

 

 

shouwatorajirou.com

そこで松竹が作った日本で最初のカラー映画

カルメン故郷に帰る」(1951年)で

使われた国産のフジカラーではなく

アメリカ製のイーストマンカラーを

採用したのですが、そのカラー映像の研究のため

カメラマンさんを渡米させることまでしました

 

その徹底した下準備もあってか

この映画のカラー映像は

豪華絢爛な平安時代劇に見事にハマっていて

俳優さんたちの色とりどりのお召し物も

より一層美しく輝いて見えます

 

ちなみにこちらの映画は

カンヌ国際映画祭グラン・プリ

アカデミー外国語映画賞

衣装デザイン賞を受賞しました

 

大映の作戦は見事に成功したのです

 

(公開当時の宣伝)

 

②ナレーションの部分で絵巻を映し出す演出がいい!

 

この映画では歴史的な背景を

説明するために時折ナレーションが

挿入されるのですが

その際に絵巻が映し出され

歴史ものであるこの映画に相応しく

粋な演出だなぁと感心しました

 

③慎ましい女性を演じる京マチ子さんが新鮮!

 

「肉体派」と呼ばれ

ハリウッド女優のようなスケールがあり

存在感がすごく、あの若尾文子さんに

あの輝くような肉体が何よりもうらやましかった

と言わしめるほど肉体美で銀幕を彩った

あの京マチ子さんがその魅力を封印し

平安時代の女性を慎ましく演じていたのが

とても新鮮に映りました

 

慎ましい女性が演じられる女優さんなら

ほかにもいるので京さんでなくても

いいのでは?と一瞬思いましたが

眉毛を薄くしている京さんのお顔を

見ていたら「羅生門」や「雨月物語」(1953年)

などでも眉毛を薄くするメーキャップが

とても似合う女優さんであることを

思い出し、これ以上ない適役だ!

と見事なキャスティングであることを

思い知らされました

 

実際にお顔をじっくりと見てみると

本物の平安女性のように見えてきます

 

京さんで大正解でした

 

④劇中の和楽器の演奏が映画音楽の役割を果たしている

 

この映画に限らずこのシリーズで取り上げた

「新源氏物語」(1961年)も同様なのですが

映画音楽は控えめなのですが

その代わりに劇中に和楽器(琴)を

演奏する場面があって

音楽の使い方も当時の雰囲気を出すのに

一役買っているように思えます

 

この映画のエピソード

カンヌ映画祭アメリカで評判となる

 

先述のようにカンヌでグラン・プリ

獲得したこの映画は同映画祭で反響を呼び

審査委員長を務めたジャン・コクトー

美の到達点である。ここに能がある」と

大絶賛したそうです

 

またアメリカでも上映されるや否や

好意的に迎えられたそう

 

大映の社長・永田雅一と衣笠監督が喧嘩!

 

大映の社長・永田雅一さんは

プロデューサーという立場を超えて

脚本にまで口出しをして

現場では衣笠監督と喧嘩をして

大変だったようです

 

社命で撮らされたこの作品について

衣笠監督はその出来に満足できなかったようで

日本経済新聞の「私の履歴書」でも

この「地獄門」に関する言及はほとんどありません

 

最後に

 

以上書いてきたように海外での評判と

映画を撮った監督さんとの間で

これほどまでの開きがあるとは

驚きましたが、「羅生門」の成功をきっかけに

海外で受ける作品を!と気合の入った

永田社長が暴走しすぎたのかな?

という印象を受けました

 

しかし喧嘩してでも

これだけの立派な作品を撮ってしまう

衣笠監督のすごさも感じます

 

しかし会社の命令と自分の欲求との間で

葛藤するというのは映画監督や

あらゆる芸術家、クリエイターが

日々抱えるものでしょう

 

でも裏でどういう事情があったにせよ

純粋な一観客である私からすると

この映画はとても美しいですし

魅力的な作品だと思います

 

ということで映画「地獄門」の

お話はここまで

 

平安時代劇シリーズは次回で

最後になります

 

参照:

東京国立近代美術館フィルムセンター

(現・国立映画アーカイブ

衣笠貞之助監督特集パンフレット

 

雑誌「キネマ旬報」2019年7月下旬号

 

北村匡平著『美と破壊の女優 京マチ子