昭和寅次郎の昭和レトロブログ

昭和を知らない世代による昭和レトロ、昭和芸能のブログです!

現代のブラック企業文化と重なる映画「山椒大夫」!時代劇(平安編⑤)

 

平安シリーズ最終回はまたしても国際映画祭受賞作!

 

大河ドラマ「光る君へ」の放送に便乗?して

始めた平安の時代劇映画紹介シリーズは

最終回となる今回も国際映画祭受賞作品!

溝口健二監督の「山椒大夫」(1954)です!

 

(「山椒大夫」の安寿役・香川京子さん)

 

おおまかなストーリー

 

ときは平安時代末期

農民の窮状を救うため

鎮守府将軍に盾をついて左遷された

平正氏の妻・玉木とその子・厨子王と

妹の安寿は旅に出るときに

そのころ横行していた人買いに

騙されて母と兄妹が別々の船に乗せられ

引き裂かれた

 

母は佐渡へ売られ、子ども2人は

丹後の領主・山椒大夫のもとへ

奴隷として売られた

 

兄は芝刈り、妹は潮汲みの

過酷な労働に苦しみながら過ごし

10年の月日が流れたある日のこと

佐渡から売られてきた女の子が

口ずさんだ歌に安寿と厨子王の名が

呼ばれているのを耳にして

兄弟は母の消息を知ることができた

 

安寿は厨子王に逃亡を勧め

自らは追手の目をくらますために残り

兄が逃げたとわかってから池に身を投げた

 

逃亡に成功した厨子王は

関白様に直訴するために

都へ出ることを決意する

 

奴隷労働、人身売買の世の中は

厨子王の訴えで果たして変わるのか

そして父や母との再会も叶うのか

 

映画の感想

平安時代奴隷制度がブラック企業文化に重なる!

 

安寿と厨子王が売りに出された場所の

労働環境があまりにも酷く

逃げ出そうとした人には罰として

拷問を受けたりもします

 

ある奴隷が発する言葉で

死ぬまで働かなきゃならない

私は人間ではないんだもの

というような台詞がありました

 

私にはこの台詞を過去のものとして

捉えることができません

 

現代の日本にはブラック企業という

薄給で長時間働かせる職場環境があるからです

 

さすがに拷問は聞きませんが

私が過去に経験したものでは

30分くらいずっと立たせたまま説教をする上司や

フロア全体に響き渡るくらいの大声で

部下を叱責する上司がいました

 

その職場では中途で入って来た若い女性が

そのパワハラ上司のせいで

わずか1か月で辞めてしまいました

 

心の病を患ってしまったかもしれません…

 

身体的な暴力ではなくても

言葉の暴力や大人のいじめで

心をやられてしまうのは

精神的な拷問と言えるのではないでしょうか

 

②まるで水墨画のように美しいモノクロ映像

 

この映画はモノクロですが

モノクロ特有の光と影を使った演出

カメラがすばらしく

風景描写では木漏れ日を映し出す場面では

光が当たる部分は白く映り

影になる部分は黒くなり

木々に光が差し込むそうしたカットでは

まるで水墨画を思わせるような

芸術的な画になっていて

鑑賞していると落ち着いてくるといいますか

癒しの効果がある気がします

 

安寿が池に入水するシーンの

水面の描写は思わずハッとするほど

息をのむほどに美しいです

 

’(香川京子さんの入水シーン)

 

③人間の尊厳を訴えるストーリーが心を打つ

 

厨子王が関白様に

奴隷労働や人身売買の蔓延る

現状を訴えようと都に出るストーリーからは

支配するものとされるものという

身分制度への疑問や、人間は誰でも

平等に扱われなくてはならないという

メッセージが感じられ、心を打たれます

 

その時代、その時代の身分制度

無くなっても、また形を変えて

現代まで続いていることですから

決して古びることのないテーマですね

 

この映画の時代背景

平安時代身分制度

 

この映画では盛んに「奴(やっこ)」

「婢(めやっこ)」という言葉が

出てくるのですが、これは「奴婢」という

身分で、奴隷として扱われ

男性が「奴」、女性が「婢」と呼ばれ

映画のように人身売買の対象とされました

 

kids.gakken.co.jp

 

この映画のエピソード

ヴェネツィア国際映画祭で3作連続受賞!

 

溝口健二監督はこの映画の前の2作

西鶴一代女」(1952年)と

雨月物語」(1953年)で立て続けに

ヴェネツィア国際映画祭で受賞を重ね

続く「山椒大夫」でまたしてもヴェネツィア

受賞するという快挙を成し遂げました

 

これだけ連続して受賞するというのは

ちょっとすごすぎますね…

でも実際の映画を見れば納得の完成度です

 

香川京子さんは入水シーンを「死ぬ覚悟で」挑んだ!

 

先述した安寿の美しい入水んシーンは

京都の小さな沼で何と2月の初めの

寒さの厳しい季節に撮影されました

 

一度水に浸かると衣装が濡れて

やり直しができないため

特に緊張されたそうです

 

助監督さんが水の中に板を敷いて

スロープを作り、その上を腰のあたりまで

水の中に入って、一発でオッケーが出たそうです

 

その日の撮影の夕方、溝口監督から

香川君、風邪をひいてくれるなよ

ご苦労さんん」と声を掛けられたとか

 

2月の寒い時期に

水に浸からなきゃいけないなんて

女優さんという商売も

楽じゃありませんよね~

 

溝口健二監督(左)と香川京子さん(右))

 

③子役時代の津川雅彦さんが出演!

 

クレジットには出てこないのですが

厨子王の子ども時代に

あの津川雅彦さんが出演されています!

 

ぜひ見つけてみてください(笑)

 

最後に(日本のブラック企業文化について)

 

奴隷制度や人身売買に関して

そのようことがあってはならないと

訴えるこの映画を見ると

低賃金で長時間働かせるのが当たり前の

現代の日本のブラック企業問題について

深く考えさせられてしまいます

 

このブラックな働かせ方というのは

過労で苦しみ自ら命を絶つ人も出ますし

最近では教育現場の過酷な労働環境で

心の病を患う先生が多くなっていることが

報道されています

 

toyokeizai.net

 

このほかにも外国人技能実習生の

過酷な労働環境や人件費抑制のため

派遣社員などの非正規労働の増加

といったものもあるでしょう

 

 

gendai.media

 

このような大切な人材を

粗末に扱う企業文化は

日本全体にとって大きな損失だと思います

 

若くてまだ将来に大きな可能性を秘め

活躍してくれて国に恩恵をもたらす人材を

大切にしない国家である限り

日本は衰退の一途をたどるでしょう

 

最近はさかんに人手不足と叫ばれていますが

それは「多様な働き方」という

聞こえのいい言葉で非正規雇用を増やし

就職氷河期世代をぞんざいに扱い

未婚者を増やして少子化を加速させた

ツケがまわってきたからだと思います

 

海外からも日本の人権意識が低いことが

認識されていて、将来メスが入る可能性があります

 

www.tokyo-np.co.jp

 

私は「山椒大夫」という映画を見て

日本の労働をめぐる環境が

改善されることを願わずにはいられませんでした

 

ちょっと深刻な話をしてしまいましたので

最後に癒しとしてこの映画の主演の

香川京子さんの冬ファッションの画像を

貼ってこの記事を締めくくりたいと思います

 

 

 

やはりキレイですね~

もう私にとって永遠の憧れです!

 

というわけで5回にわたって

紹介してきた平安時代を描いた映画シリーズ

これで終わりです

 

次は趣向の違うシリーズで映画を紹介します

 

参照:

国立近代美術館フィルムセンター

(現・国立映画アーカイブ

溝口健二監督特集パンフレット

 

香川京子・述/立花珠樹・編『凛たる人生』

 

映画「山椒大夫Blu-ray特典映像