昭和寅次郎の昭和レトロブログ

昭和を知らない世代による昭和レトロ、昭和芸能のブログです!

娼婦を続けるか足を洗うかで葛藤する女性の苦悩を描く!昭和の"立ちんぼ"映画③「夜の片鱗」

 

最終回はまたしても桑野みゆきさん主演映画!

 

これまで2作品シリーズで紹介してきた

昭和の"立ちんぼ"映画の最終回は

前回に引き続き、またしても桑野みゆきさんの

主演作となりました

 

1964年公開の「夜の片鱗」です(中村登監督)!

 

 

おおまかなストーリー

 

芳江(桑野みゆき)は昼間は工場で働き

夜はバーで働いていた

 

そんなある日バーに英次(平幹二郎)という

男が頻繁に飲みに来るようになる

 

芳江と英次は親しい間柄となり

芳江は英次のアパートに同棲するようになる

 

しかし英次は仕事をしておらず

お金がないために芳江に

売春をするように迫り

また自身がヤクザであることを明かした

 

芳江は英次に言われるがままに

街頭に立ち客をとった

 

しかし芳江にはもう1人

親しくしている男がいた

サラリーマンの藤井(園井啓介)だ

彼は芳江に「君みたいな女性が

どうしてこんなことをしている?」

「結婚しよう。英次と縁を切って

ここから逃げ出すんだ」と

芳江に迫るが彼女はどちらの男に

ついていくのか決断できずにいた

 

果たして彼女はそのままヤクザの

英次と暮して娼婦を続けるのか

それとも足を洗って藤井と一緒に

逃げる道を選ぶのか

 

彼女の選択はいかに?

 

映画の感想

➀さらに清純派を脱却した桑野みゆきさんの演技

 

前回紹介した「青春残酷物語」でも

清純派ではない役柄に挑戦されていましたが

この「夜の片鱗」ではさらに演技に

磨きをかけて娼婦をやっているときは

タバコを吸いながら蓮っ葉な調子の声を出し

完全になりきっていました

 

でも持ち前の可愛らしい部分もあり

園井啓介さんから「君はそんなことを

する女性じゃない」という台詞も

説得力を持って聞こえてきます

 

この演技的成長は見事なものです

 

②暴力的なシーンを極力見せないのがいい

 

桑野みゆきさんの恋人でヤクザの

平幹二郎さんが属している組織の人たちから

桑野さんが暴力を受けるシーンがあるのですが

その場面では菅原文太さんが襖を閉めて

暴力を受けていることはわかるけれども

その場面を映さないことによって

私のような暴力的な映画が苦手な

タイプの人間でも安心して見られるような

演出がされているのがいいなと思いました

 

特に見せなくてもわかる場合は

観客に十分に伝わるんですよね

いい演出だと思います

 

そういえばヤクザ組織の一員として

ブレイク前の菅原文太さんが

出ているのも見どころの一つでしょうかね

 

ほんのチョイ役ですが

十分ヤクザの貫禄がすでに出ていました

 

その後ブレイクしたのも納得です

 

そもそも桑野みゆきさんはなぜ娼婦に?

 

そもそも桑野みゆきさんはなぜ

この映画で娼婦にならなければ

ならなかったのでしょうか

 

実はこの部分が詳しく説明

されていないのです

 

正解を言ってしまうと

女工」という工場で働く女性で

そういった女性たちは差別を

受けていた歴史があり

そのせいなのか桑野みゆきさんは

恋人・平幹二郎さんなど

周囲の人には「女工」であることは隠し

洋裁学校に通っているなどと

嘘をついていました

 

この映画が公開された当時の観客には

何も説明がなくても「女工」というだけで

納得できたのだと思いますが

いまの日本の若い人たちには

「なんのこっちゃ?」ということに

なりかねないので(笑)私が解説します

 

女工について(映画をより深く理解するために)

 

日本で「女工」なる職業が誕生したのは

明治20~30年代に遡ります(キャッ!)

工場での労働の実態は現代でいう

ブラックな働き方で1日12時間労働で

居残りや早出をすると18時間も(!)

働かされていました(ギョッ!)

 

逃亡する女性もいたそうですが

見張り人に捕らえられて懲罰を受け

殴打されたり、裸にされて工場内を

ひきまわされる方もいたとか(…)

 

このような過酷な労働環境ですから

当然身体を壊す、あるいは死に至る

女性もいてその数は50万人中5000人の

割合だったそう

 

そして映画のように女工から売春婦に

転身した女性も実際にいたそうで

女工とは稼げる金額が違うので

送金すると郷里から頼りにされてしまう

そんなこともあったようです

 

(下中邦彦編『日本残酷物語5』を参照)

 

映画の桑野みゆきさんはダブルワーク!

 

映画の桑野みゆきさんは昼間は工場

夜はバーで働いていると

先述のストーリー紹介で書きましたが

長時間労働、薄給だったという背景を知ると

工場の仕事だけでは生活できなかった

ダブルワークせざるを得なかったことが

よくわかりますね

 

あれ?ダブルワーク?

これって何だか現代と似ていると思いませんか?

 

toyokeizai.net

上の記事は非正規公務員の男性で

本業だけでは給料が少ないので

パン工場の夜勤の仕事と掛け持ちしている

というケースです

 

近年は低賃金と物価高で

「副業せよ」「投資せよ」などという

ネット記事などをよく見かけますが

これは果たして健全なことなのでしょうか?

本来は1つの仕事で生活できるようになるのが

望ましい働き方ではないでしょうか?

 

表題の映画「夜の片鱗」は1964年の映画

ちょうど60年前ですがそれから

進歩が見られませんね…

 

中村登監督が桑野みゆきさんの起用法を反省?

 

この「夜の片鱗」を監督した中村登さんは

桑野みゆきさんについて

以下のような言葉を残されています

 

私は学生時代(みゆきさんの母で女優の)

桑野通子の大ファンでした

 

(中略)

 

いつかこの女優を主役に映画を

作ってみたいと思いました

監督になって3年目にやっと

思いがかないました

しかし何とその時、彼女は妊娠6か月の

身重だったのです

 

(中略)

 

その時お腹に居たのが桑野みゆきです

 

その後15年を経て経て成人した桑野みゆき

女優として私の前に現れました

それから9年間、12本の私の作品に

みゆきちゃんは出演してくれたのです

 

(中略)

 

しかし私はみゆきの中に桑野通子の面影を

求めていたのかもしれません

「違う、全く違う」ですから

みゆきちゃん本来の良い面を

引き出せなかったと思います

 

大島渚監督の「青春残酷物語」では

私が全く想像もつかなかったような

素晴らしい芝居を、みゆきはやってのけました

私はガツンと一発頭を強く殴られたような

気がしました

 

桑野みゆきは私が見る目が無かったと

ひけ目を感じている女優の1人です

 

キネマ旬報社『日本映画俳優全集・女優編』より引用)

 

中村監督は随分と自己評価が低いですね

 

私は感想で書いたように

「夜の片鱗」では「青春残酷物語」にはなかった

蓮っ葉なキャラクターを引き出していて

立派な演技をされているように思います

 

下のように「夜の片鱗」について

絶賛評が寄せられています

 


あの「スパイの妻」の黒沢清監督と

イギリスの有名な映画雑誌

「Sight&Sound」の方がこれだけ

褒め讃えているのですから

みゆきさんの演技もよかったのだと思います

 

というところで3回にわたって

紹介してきた"昭和の立ちんぼ"映画

シリーズも今回で終わりです

 

 

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次回はもう少し明るい映画を

紹介したいと思っています(笑)

 

もうすぐ4月ですからね

また新たな気持ちで

映画を紹介したいと思います