昭和寅次郎の昭和レトロブログ

昭和を知らない世代による昭和レトロ、昭和芸能のブログです!

終戦直後の女性のつらい境遇をリアルに描写!昭和の"立ちんぼ"映画➀「夜の女たち」

 

今度の映画紹介は昭和の「立ちんぼ」!

 

今回は近年報道され注目されている

"令和版"路上売春「立ちんぼ」に触発され

昭和にも路上に立つ貧しい娼婦たちがいたこと

また昭和の貧しい時代に日本が

回帰してしまったのか?ということを

考えてみようとシリーズ形式で数作品

取り上げることにしました

 

今回紹介する映画は溝口健二監督の

「夜の女たち」(1948年)です!

 

 

おおまかなストーリー

 

舞台は終戦直後の大阪、天王寺界隈

戦争で朝鮮に行った夫の帰りを

結核を患っている幼い子どもを

育てながら待っている田中絹代さんは

闇市で服を売って食べ物を買ったりする

何とかしてお金を工面する生活を送っていた

 

そんな絹代さんに店の女性は

いい勤め先があると、何と

売春を勧めるのだった

絹代さんは冗談じゃないと

その話を一度は断った

 

しかし息子が病気で亡くなり

夫も戦死してしまったと伝えられる

 

お金に困った絹代さんは

例の売春の話を引き受けることにした

 

娼婦への道を選んだ彼女には

どんな運命が待ち受けているのか

 

映画の感想

田中絹代さんが文字通りの体当たり演技で圧倒!

 

主演の田中絹代さんがあの小柄な身体

全身を使って文字通り「体当たり」の

演技をされていて圧倒されました

 

闇市で食べ物を買いながら

貧しく生活しているときは

いつもの穏やかで優しそうな絹代さんが

娼婦になるとガラッと目つきも

声色も変わる姿がすごかったです

 

また娼婦同士のキャットファイト

シーンが多く、また娼婦が立って

男性を待っている場所に絹代さんを

探しにやって来た妹(高杉早苗)に

娼婦たちが襲いかかったり

集団で女性の服を剝ぎ取ったりと

信じがたいようなシーンも衝撃的で

見ていて少しつらくなるところも

正直に言うとありました

 

終戦直後の焼け跡の町がリアルさを醸し出している

 

焼け野原のころの大阪・天王寺付近で

ロケ撮影を敢行しているので

絹代さんを始めとした娼婦たちが

特にお顔も名前も知らない女優さんは

本物の娼婦たちに見えてきて

当時の空気感がリアルに出ているように

感じられます

 

なので女優さんたちの演技が

演技じゃないように見えて

単なる作り物ではないようにすら思えて

当時の様子を目撃しているような

そんな感覚にもなります

 

③男性たちがただの悪者だけではないのがいい

 

映画では男性たちに無理やり

襲われたりする女性も出てきますが

一方で、娼婦たちの更生施設も

途中で出てきて、そこの施設長が

善良な男性なので「男は悪い生き物だ」

という単純な作りになっていなくて

またつらいいシーンもでてくるこの映画で

そうした善良な男性がホッとさせてくれる

そんな役割も果たしているような気がします

 

フェミニスト・溝口監督ならではの作品

 

溝口監督は幼少期の体験から

フェミニストになったようで

この映画でもその監督らしいメッセージが

伝わってきて思わず胸が熱くなりました

 

この映画の時代背景

➀戦争未亡人

 

終戦直後の日本の男女の比率は

若者が戦死したため

女性たちが圧倒的多数を

占めていたそうです

 

映画のなかの絹代さんのような

夫を亡くした「戦争未亡人」が

出てしまいました

 

1947年の調査によると

そうした女性たちは総数で56万人

内訳は戦没者未亡人が37万人

戦災者未亡人が11万人

引揚者未亡人は8万人だったそうです

 

突如として望まない形で孤立してしまった

当時の女性たちの喪失感や苦しみ

悲しみを想像すると胸が痛みます

 

②慰安施設設置と街頭売春婦の出現

 

終戦後、日本政府は進駐軍のため

良家の子女の貞操を守るために

特殊慰安施設協会(RAA)を立ち上げ

アメリカ軍に捧げました

 

しかし施設は半年で突然廃止され

放り出されてしまった女性たちは

真っ当な仕事がないために

数寄屋橋や新橋のガード下で

唇を赤くしてタバコを吸い

米兵を誘うことを始めたようです

 

まるで最近報道される「立ちんぼ」

のような光景ができたのでしょうか

 

でも最近の立ちんぼとは違いがあるでしょう

 

"令和版"街頭売春婦「立ちんぼ」とは?

 

下の記事を読む限りでは

まともに働いても時給が安くて

路上売春した方が気楽に稼げるから

ということが背景にあるようです

 

president.jp

 

記事でも売春が「カジュアル化」していると

書かれていますが、終戦直後の

致し方なく娼婦に身を落とした女性たちと

比べると切迫感がないような印象を受けます

 

しかし一方で、下の記事のように

貧困や夫の暴力などの切迫した理由から

「立ちんぼ」をしているという女性もいて

ざっと調べたところ女性によって

事情はさまざまという印象を受けました

 

www.nhk.or.jp

国はすぐに"格差是正""貧困対策"を

 

格差が拡大し貧困層の人たちが出てくると

徐々に世の中が物騒になってくるのですよね

 

あの地域は危ないから近寄らない方がいい

というような土地も出てきてしまい

治安が悪くなったり

人々が分断される社会ができます

 

もうすでにそうなりつつあるのかもしれませんが

これ以上格差を広げないように

政府は務めるべきです

 

しかしその格差を広げる政策をしてきたのが

現在の政権党なんですけどね…

 

映画「夜の女たち」のエピソード

 

最後にこの映画のエピソードを紹介して

記事を締めたいと思います

 

➀ロケ撮影で人だかりができた

それまで可愛い娘や貞淑な妻を

演じてきた田中絹代さんが

初めて汚れ役をやるというのが

話題を呼んで、ロケ撮影では

ものすごい人だかりが出たそうです

 

②映画は大ヒット!絹代さんも演技賞を受賞!

公開後は興行的に大ヒットを記録

絹代さんは小津安二郎監督の

「風の中の牝鶏」と併せて

毎日映画コンクールの女優演技賞を

受賞しました

 

というわけで「昭和の"立ちんぼ"」映画

シリーズ第一弾「夜の女たち」の

紹介はここまでです

 

少々つらいシリーズかもしれませんが笑

そんなに長くはやりません

 

第二弾は何の作品になるでしょう?

 

 

 

参照:

新藤兼人著『小説 田中絹代

東京近代美術館フィルムセンター

(現・国立映画アーカイブ)発行

溝口健二監督特集パンフレット

塩見鮮一郎著『戦後の貧民』

 

 

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