昭和寅次郎の昭和レトロブログ

昭和を知らない世代による昭和レトロ、昭和芸能のブログです!

若い男女の美しい純愛に見えない壁が立ちはだかる!格差映画②「まごころ」

 

格差映画第2弾は小林正樹監督の純愛青春映画!

 

前回の黒澤明監督「天国と地獄」(1963年)

に続く格差映画シリーズ第2弾は

切腹」や「人間の條件」といった

重厚な映画で世界的に有名な小林正樹監督の

長編デビュー作にして美しい純愛の

青春物語「まごころ」(1953年)です!

 

(劇中で窓の外を見つめる美少女・野添ひとみさん)

 

前回紹介した黒澤明監督の「天国と地獄」の

サスペンス劇&社会派風の作品とは

同じ"貧富の格差"を題材にしても

こんなにも違うのか!というほど

作風がまるで違います

 

前回の「天国と地獄」の記事を

一応貼っておきます

ご興味のある方はどうぞ

 

shouwatorajirou.com

さて表題の映画についてですが

主演は当時人気のあった松竹の美少年俳優・

石濱朗さんです

 

それから当時はまだSKD所属だった美少女女優・

野添ひとみさんが出演しているほか

小林正樹監督とは親戚関係にあった女優の

田中絹代さんが友情出演しています

 

田中絹代さん(左)と石濱朗さん(右))

 

簡単なストーリー紹介

 

クリスマスに近い年末

石濱朗さん演じる主人公の青年は

受験を間近に控えたラグビーの好きな高校生

 

彼の住む家は広くて部屋がたくさんあり

家の中を走り回ったりと大はしゃぎで

青春を謳歌している模様

 

一方、彼の向かいのボロアパートには

新しい家族が越してきた

その部屋は北向きで陽が当たらず

洗濯物もなかなか乾かない

 

彼の部屋の窓から新しい家族の部屋が

見えるようになっており

あるとき窓を開けると向かいの部屋の

窓が開いていて美少女が

顔を覗かせていた

 

彼は一瞬にして心奪われる

美少女の方もこちらに興味を

抱いてくれたようだ

 

しかしアパートの大家さんが

彼女はどうも胸を病んでいるようだと

彼の家族に告げるのを聞いてしまい

彼の心に動揺が走る

 

何とかして彼女を助けてあげたい!

サナトリウムに入ったらどうだろう?」

と聞くも貧しくて入院できない人が

この世には存在することを聞かされ

ショックを受ける

彼は飼い犬を入院させているのに

入院できない人間がいるなんて…

 

「受験を終えたら彼女を助けたい!」

という彼の願いは果たして叶うのだろうか

そして彼女との恋の行方は?

 

とストーリー紹介はここまでで

以下に感想などを書いていきます

 

当時の若きスターのキャスティングがお見事!

 

石濱朗さんという当時の若き人気スターに

受験生という年齢的にもピッタリな

役柄をあてたのがお見事で

胸を病む美少女・野添ひとみさんを

何とか助けたいと願う純真な青年に

これ以上ないというほどにハマっています

 

一方の野添ひとみさんの美少女ぶりも

石濱さんが魅かれてしまうのも

頷けるほど可憐で可愛らしくて

病気で弱っているという役どころも

うまく演じています

 

そして若きスターの周辺には

高橋貞二さんや田中絹代さん

津島恵子さんや三橋達也さんといった

芸達者な俳優さんで固めています

 

木下恵介監督が書いた脚本の出来がいい

 

小林正樹監督を自身の映画の助監督として

何度も起用して映画作りを教えた恩師

木下恵介監督が書いた脚本のすばらしさも

見過ごすことはできません

 

"格差"という社会問題と純愛物語を

うまく融合させて観客の涙を誘うのが

"泣きの木下"と言われた木下監督らしい

物語に仕上がったと思います

 

季節をクリスマスに近い時期に

設定したのもうまいですね

 

クリスマスの夜

石濱朗さんは教会の近くで

「神様!あの人を助けてあげてください!」と

切実な祈りをささげるのですが

クリスマスなので「神様」と言っても

違和感がありません

 

本当に細かいところまで

よく行き届いた脚本だと思います

 

世の中の不条理を初めて知った青年の成長物語?

 

裕福な家庭に生まれ

何不自由ない生活を送って

伸び伸びと育っていたであろう

若き青年が初めて"犬が入院できて

人間が入院できない"という世の不条理を知る

成長物語でもあるといえそうです

 

でもそれを可能にしたのは

裕福な家庭と貧しい家庭とが

同じ地域に住んでいて

富裕エリアと貧困エリアに分かれていない

ということが大きいと思います

 

しかしこの映画はどこで撮影したのか

気になりますねぇ

 

家のなかはおそらくセット撮影だと

思いますが外もセット撮影なのでしょうか

ちょっと調べてみたいですね

 

この映画は脚本賞を多数受賞!

 

この映画は脚本が評価され

執筆した木下恵介監督は

第8回毎日映画コンクール

第4回ブルーリボンなどで

脚本賞を受賞しました

 

恩師のおかげで小林正樹監督は

幸先のいいスタートを切ることができました

 

この映画の背景にある終戦直後の格差

 

この映画の野添ひとみさんが

「胸を病んでいる」というのは結核のことです

 

終戦後すぐの時期には結核など

あらゆる感染症が流行したそうです

チフス発疹チフスジフテリア

しょう紅熱、痘瘡、コレラといった

病気が広まったようです

 

要因は水質汚染などの不衛生な環境

栄養失調で抵抗力が失われていたこと

さらに戦地から引き揚げてきた日本兵

そうした感染症に罹っていて

菌が広まってしまったのだそう

 

現代も病気でも入院できない貧困家庭がある

 

格差社会が加速していくばかりの現代でも

映画の野添ひとみさんのように

貧しくて病気なのに入院できない

そのような境遇の子どもはいるのでしょうか?

 

答えはYesです

そのような貧困家庭の子どもがいるのです

 

2019年に国立社会保障・人口問題研究所が実施した

調査によると、銭的理由でできないことと

回答した項目として「必要なときに医者にかかること」

2.3%で、「冷暖房などで家の中を快適な

温度に保つこと」は4.8%でした

 

これがひとり親世帯に限ると

パーセンテージがグッと跳ね上がり

前者は6.0%、後者は11.6%になります

 

表題の映画「まごころ」の公開は1953年

70年前になりますが描かれている内容は

決して古い出来事ではなく

現代になって形を変えてまた現実に

起きてしまっていることなのです

 

映画のなかの石濱朗さんの

台詞ではありませんが

私はこうした子どもたちを

「助けてあげたい!」と強く思います

 

そのほかにも満足に食べられない

新しい衣服が購入できない

進学を諦めざるを得ない

そんな子どもたちがいます

 

しかし私ひとりの力ではどうにもできない

そのようなもどかしさを

石濱朗さんのように感じる

今日この頃です

 

というところで今回は締めます

次回の映画紹介は「格差映画」シリーズ

最後の1本になります!

 

参照:

 

世田谷文学館編「生誕100年 映画監督・小林正樹

塩見鮮一郎著『戦後の貧民』

南野奈津子・結城康博編集『子どもの貧困』

 

 

www.gnjp.org