昭和寅次郎の昭和レトロブログ

昭和を知らない世代による昭和レトロ、昭和芸能のブログです!

大学共通テスト出題の親ガチャ問題みたい?格差映画➀「天国と地獄」

 

今度の映画紹介シリーズはずばり"格差映画"!

 

これまで映画紹介の記事は

戦前の暗いイメージを覆すコメディ作品を

取り上げてきましたが

今度は現代の社会問題である"格差"を描いた

昭和の映画を紹介したいと思います

 

前回の紹介記事ではあともう1本

戦前の楽しい映画を紹介すると書きましたが

その作品は別の機会に紹介します

 

では本題に入ります

 

まるで共通テストの問題みたい?な「天国と地獄」

 

昨年の大学共通テストで主題され

ちょっとした話題を呼んだ問題がありましたね

「親ガチャがテストに出た!」と

 

president.jp

すごい豪邸…、こんな家に生まれた子どもは

運がいいね。不平等だな

 

という会話から始まる問題

 

表題の映画「天国と地獄」は

そんな大豪邸の場面から幕を開けます

 

大豪邸に住むのは靴メーカーの社長・権藤

彼が会社の重役たちと自社の靴について話し合っていて

彼の子どもと運転手の子どもが外に遊びに行くときに

事件が起きました

 

取り違い誘拐事件が勃発

 

権藤のもとに電話がかかってきます

お前の息子を誘拐したぞと

さらに身代金3000万円を要求してきます

 

とここまではありふれた誘拐もの

と思いきや犯人は間違えて権藤の息子ではなく

運転手の息子をさらってしまいました

 

これがひねりが効いていて

面白い出だしだと思います

 

(犯人からの電話を受け取る三船敏郎さん(右)と妻役の香川京子さん(左))

 

権藤邸に緊張と動揺が走ります

権藤は身代金を渡すのでしょうか?

犯人の狙いは一体何なのでしょうか?

 

というところから一気に観客を引き込む

サスペンス映画になっています

 

以下、私の感想を書いていきます

 

権藤を演じる三船敏郎さんの迫力がすごい!

 

権藤を演じる三船敏郎さんはただ普通の声で

喋っているだけなのに声が太くて力強く

まるで舞台俳優のようだと思いました

迫力が桁違いです

 

ワイドスクリーンを意識した演出が見事!

 

冒頭の権藤邸の中のシーンでは

カメラがちょっと引いたところから

撮っているのか、画面いっぱいに

人物を配置してまるで舞台劇を見ている

そんな感覚になりました

 

(人物を左端から右端まで目一杯配置しています)

 

この映画はワイドスクリーンで上映されたようで

黒澤明監督はそのことを計算に入れて

演出されたのかな?と思われます

 

なので本来であれば映画館の大きな画面で

見る方がいいのかもしれませんが

このような昔の映画を上映する映画館は

東京や大阪などごく一部の地域にしか

ないのが何とも残念です(泣)

 

犯人役の山崎努さんの怪演ぶりにも注目!

 

現在も現役の俳優さんでいらっしゃる

山崎努さんがデビューしてから3年の映画なのですが

まだ駆け出しとは思えない怪演ぶりも

注目に値するすばらしい演技です

 

アパートから豪邸が見えるのが格差を感じさせる

 

山崎努さんが住むボロアパートから

丘の上に立つ権藤邸が見える構図が

格差を観客に印象づける

すばらしいショットだと思います

 

そして場面が変わると山崎努さんの住む

ところには川が流れていて

川にはゴミが浮いています

 

こうして視覚で見る人に訴えかけられるのが

映画のいいところですよね

 

また脅迫の電話で山崎努さんは

「そっちは冷暖房完備で

こっちは暑くて寝られやしない」との

台詞も出てきて

視覚で説明できないことは台詞で補う

もう映画作りのお手本のような感じで

さすがは世界のクロサワ!と思います

 

三船さんにも山崎さんにも肩入れしない作り方

 

この映画は三船さんがどうして豪邸に住めるほどの

大富豪になったかということも

山崎努さんがどうして貧しい暮らしを

しなければならなくなったという

背景が語られないため、どちらにも同情する

余地を与えない、感情移入はさせない

ドライな作り方をしています

 

そのため犯人を追うプロットの面白さで

引きつける娯楽作品でありつつ

格差というものがあるという事実を

観客に突きつけて考えさせるような

社会派の映画のようにも思えます

 

この映画のエピソード

➀映画の公開後日本で誘拐事件が多発した!

 

この「天国と地獄」は大ヒットして

世の中に思わぬ影響が出ました

 

それは何と日本国内で誘拐事件が

多発したのです!

 

しかも黒澤監督自身も娘さんの

誘拐脅迫電話をたびたび受け

娘さんを学校まで車で送迎させるようになりました

 

②日本の法律を変えた!

 

黒澤監督がこの映画を作った狙いは

誘拐に対する刑をもっと重くして欲しい

ということがあったのですが

何と誘拐事件多発をきっかけに

国会でも議論なり、刑法が改正され

誘拐への刑が重くなりました

 

1本の映画がこれほどまでの影響を及ぼすとは

黒澤映画の持つエネルギーが

よほど凄すぎたのでしょうね

 

黒澤作品はインパクトの強烈な

重厚な作りが特徴的ですから

 

しかしあんな映画を作るから

誘拐が増えたと世間から非難されて

黒澤家のムードは沈んでしまったのだそう

 

黒澤さんはまさかそこまで世間に影響を及ぼすとは

予想していなかったでしょうから

黒澤さんには罪はないですよね…

 

何とも黒澤さんが気の毒に思えてくる

エピソードです

 

この映画で気になること

➀舞台となっている横浜で英語の看板が目立つ

 

山崎努さん演じる犯人が夜の横浜の街を

練り歩くシーンで英語の看板が良く目につき

外国の方の姿も映ります

 

(このような光景が映し出されます。岩波写真文庫『横浜 1956』より)

 

これは江戸時代に幕府が欧米の国と

通商条約を結んで横浜港を「開港」

したことに起因しているようです

 

smtrc.jp

www.sumaitoseikatsu.yokoham

②薬物中毒者が多く出て来る

 

犯人の山崎努さんはクスリの売人と

接触していたり

中毒者が集まっているキケンで

怪しげな場所も出てきます

 

以下のサイトによると

横浜は戦後のある時期まで

薬物を入手しやすい土地だったようです

その理由は上記の開港により

国際貿易都市となったことが

背景にあるようです

 

www.arban-mag.com

格差社会が進んだ要因は?凶悪犯罪は増える?

 

この映画を見た/見る現代人は

「親ガチャ」などという言葉が出てしまうほど

進行してしまったいまの時代の格差社会について

考えてしまうと思います

 

現在の格差社会を形作ったのは

イギリスのサッチャー首相やアメリカの

レーガン大統領が推し進めてきた

新自由主義経済」を日本も取り入れたことです

 

money-bu-jpx.com

 

ただ新自由主義について説明すると

記事が長くなりすぎてしまいますので

ここでは省きますが

格差拡大による凶悪犯罪は増えているようです

 

www.nippon.com

 

しかし生活が苦しい状況にある人が全員が

犯罪に走るわけではなく

苦しさを「内に向ける」人も多いようです

 

www.ben54.jp

 

「内に向ける」とは精神疾患にかかったり

自殺してしまうということです

 

年配の方のなかには今の若者は弱くなった

という方がいますがそう簡単に言えることではなく

格差に起因する様々な問題も関係しているのです

 

「天国」と「地獄」の分断が起きている

 

社会学者の山田昌弘さんによると

現代では「富裕エリア」と「貧困エリア」が

明確に分かれてきていて

自分と異なる階層の人々がいる場所には

住みたくないという「階級意識」が

日本人の間でも起きているそうです

 

まさに映画のタイトル通り

「天国」と「地獄」に分かれつつある

と言えそうです

 

日本の将来が心配!格差拡大に歯止めをかけるには?

 

凶悪犯罪の増加、自殺者の増加

心を病む人の増加といった

格差社会に起因する問題が起きて

人々の間で分断が進んでいるという

事実を知ると日本の将来が心配になります

 

その格差を是正するためには

私を含めた国民が政治意識を高めて

国民が一人ずつ持っている選挙権で

どのような政党や候補者が

相応しいかをよく考えて

投票することにかかっていると思います

 

この閉塞感のある暗い時代の唯一の希望は

その選択肢が与えられている

ということだと思います

 

 

参照:

ステュアート・ガルブレイス4世著

櫻井英里子訳『黒澤明三船敏郎

山田昌弘著『新型格差社会