昭和寅次郎の昭和レトロブログ

昭和を知らない世代による昭和レトロ、昭和芸能のブログです!

決闘シーンがなくても面白い時代劇!映画「丹下左膳余話 百万両の壺」

 

戦前の暗いイメージを覆す映画紹介シリーズ第3弾!

 

戦前の暗いイメージを覆すべく

紹介してきた映画は小津作品に始まり

清水宏監督へと続き、今度は時代劇です!

小津監督や清水監督と親しかった

山中貞雄監督の「丹下左膳余話 百万両の壺」

(1935年)です!

 

(左が大河内傅次郎、右は歌手の新橋喜代三(映画のクレジットは喜代三))

 

映画について簡単に紹介

 

時代劇というと普通は

切った張ったの決闘シーンがありますよね

 

でもこの映画はそれがないのです!

それでいて面白いのです!

時代劇と言っても庶民が主役なので

ストーリーテリングの上手さとユーモアで

面白く仕上げているのです

 

では簡単なストーリーを紹介します

 

ストーリー紹介

 

伊賀の国の柳生氏(江戸時代の武家)の

城主・対馬守は代々の家宝である

こけ猿の壺に百万両の絵図面が

入れてあると聞かされる

 

しかしその壺は弟の源三郎が

婿入りする際に与えてしまっていて

さらに弟の妻がいらないからと

壺を一文で売ってしまったというのだ

 

壺はその頃にはもう子どもが

金魚の世話をする入れ物として

使ってしまっていた

 

さぁ大変!壺を取り戻すことは

できるのか?

 

壺をめぐるユーモラスな人情時代劇

 

百万両と聞いても江戸時代の

貨幣価値ですから大金であることは

伝わってきますが、では現在で

いうとどれくらいかと言いますと

下記のサイトで計算したら

何と1000億円でした!

 

keisan.casio.jp

 

ちょっと途方もない金額ですね…

 

そんな高価な壺が金魚鉢として

子どもに使われていたり

粗末な扱いを受けているのが

何とも滑稽です

 

しかもその壺を倒してしまったりする

場面もあったりしてハラハラします

 

古い映画は退屈そうですとか

そういったイメージを抱いている方は

映画ファンの間でも結構多いのですが

決してそんなことはないのです

壺をめぐってハラハラしつつ

クスリと笑いを誘う楽しい映画があるのです

 

私の場合は時代劇にはお決まりの

決闘シーンがなくても

面白い作品は作れるのだと知って

感銘を受けました

 

「百万両の壺」という高価な壺を

ヒッチコック監督がよく使った手法

マクガフィン」として効果的に使って

ストーリー運びを面白くしているなぁ

うまいなぁと思います

 

また百万両の壺で金魚の世話をする子どもは

父親が殺されたために孤児という

境遇になってしまったため引き取って育てる

大河内傅次郎さんの描写を見ると

いまの日本が失ってしまった

助け合いの精神に人情味を感じます

 

この映画に関するエピソード

➀原作者を怒らせた山中貞雄監督

 

この「丹下左膳」はシリーズもので

「百万両の壺」以前に2作製作されていて

監督は伊藤大輔という監督さんが

メガホンを取っていたのですが

完結編となる3作目は伊藤大輔監督が

日活を去ってしまったため

山中貞雄監督に仕事が回って来たそうです

 

「丹下作膳」シリーズ第1作「丹下左膳」(1933年)

第2作「丹下左膳 剣戟の巻」(1934年は)は

片目片腕の剣術の強いキャラクターを

大河内傅次郎が演じて当時は一世を風靡する

大ヒットとなったそうなのですが

完結編の監督を任された山中貞雄さんは

前2作の流れを無視して自己流にアレンジして

剣術はほぼない庶民喜劇に仕立てました

 

この山中風の作品を見た原作者の

林不忘さんは「これはおれの丹下左膳ではない」と

怒ってしまったのだそう

 

②原作者の怒りとは裏腹に大ヒット!

 

しかしいざ封切りのときを迎えたら

原作者の怒りを買うほどに

作風が大きく変わったにも関わらず

大ヒットを記録しました

 

山中監督の甥で映画監督の加藤泰さんは

京都の劇場に封切り時に観にいった際に

人があまりにもたくさんいて

立ちっぱなしの上に人々の肩の間から

鑑賞したそうです

 

③女流作家・林芙美子さんも絶賛!

 

女優・森光子さんのでんぐり返しで有名な

舞台作品「放浪記」の原作者である

林芙美子さんもこの山中風「丹下左膳」を

大絶賛する文章を映画雑誌に寄せています

 

「味のあるもので(大衆的には受けないという

話であったが)私には随分愉しい映画であった

 

(中略)

 

温かい短篇でも読まされたように後味が

すがすがしくって、大河内傅次郎と

山中貞雄との意気がぴったり

寄り添っているのを感じた」

 

 

と著名な小説家にここまで言わしめ

さらに

 

「小津氏の「東京の宿」に流れる一聯(れん)

の詩情と、山中貞雄氏の「百万両の壺」に

溢れる心理描写は、私をして、この二人の

監督諸氏に逢って話してみたい気持ちも

起こさせるのである」

 

と続け、あまりの絶賛ぶりに

私は驚くと同時に嬉しくなってしまいます

 

加藤泰著『映画監督 山中貞雄』より引用)

 

④大河内傅次郎さんの妻役は歌手の新橋喜代三さん

 

大河内傅次郎の妻役で

劇中で三味線を弾いて歌っているのは

歌手の新橋喜代三さんです

 

このような歌を歌っていた方です

 


www.youtube.com

 

この映画に出て来る時代劇特有の風俗や用語

 

この映画には江戸時代の風俗や

特有の用語が出て来るので

ちょこっと解説します

 

➀矢場

 

劇中で柳生源三郎が的にめがけて

矢を射る遊びをするのですが

この遊び場を「矢場」と言うのですが

表向きは遊び場を装って

裏では何と売春が行われていました!

 

そして若い人たちが大好きな「ヤバイ」

という言葉はこの「矢場」が語源なのです!

 

若い方、ご存知でしたか?

ビックリしますよね(笑)

安易に「ヤバイ」を使うのは

それこそ「ヤバイ」かもしれませんよ(笑)

 

zatsugaku-company.com

 

②江戸八百八町

 

「江戸八百八町」

「(壺が見つかるまでに)10年かかるか

20年かかるか」という台詞が頻繁に

出てくるのですが「江戸八百八町」とは

江戸にはたくさんの町があることを表す

慣用句で、江戸がとても広いから壺は

いつ見つかるだろうか…と途方に暮れる

気持ちを吐露したものと思われます

 

www.soumu.metro.tokyo.lg.jp

③面子遊び

 

劇中で子どもたちがめんこ遊びをしていますが

江戸時代の面子は紙製ではなく

粘土で作った「泥面子」というものでした

 

子どもたちの大切な遊びだったのでしょうね

 

www.city.shinjuku.lg.jp

 

ということで戦前の暗いイメージを覆すべく

書いている映画の感想記事は

今回が第3弾ですが次回も

戦前の面白い作品を紹介したいと思います

 

 

参照:

東京国立近代美術館フィルムセンター発行のパンフレット「映画史上の名作(1)」

加藤泰著『映画監督 山中貞雄

 

 

 

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