それでは前編に続き
後編に入ります
ここでは私が思う芦川いづみさん像
彼女の魅力やあまり演技派とは
見られていない向きもある?気がしますが
幅広い女性像を演じてきたこと
人としての魅力などを書いていきます
芦川いづみの魅力(女優として)
(CAに扮した芦川さん。雑誌「平凡」1956年11月号より)
透明感のある天使のような美貌
芦川いづみさんの女優さんとしての魅力は
まず美貌からお話ししますと
昭和の女優さんという感じの薄い
現代的なお顔立ちをされていること
体格もそれほど大柄には見えない
「和製オードリー・ヘプバーン」と
言われたこともあるほど
全体的に日本人好みの容貌をされている
ということでしょう
だから2010年代に東京の名画座に
多くのお客さんが駆け付けたのだと思いますし
リアルタイムで芦川さんを知らない
世代をも魅了した要因でしょう
そして透明感のある美しさと
一見すると親しみやすそうな
容貌をしていながらまるで天使のような
魅力があり手が届きそうで届かない
といったところではないでしょうか
でも実際の芦川さんは身体が大きく
共演者や監督さんに「意外に大きい」と
言われてご本人は「小さくなりたい」と
思ったのだとか
でも大柄であることを感じさせないのが
不思議ですよね
「和製オードリー」と言われた所以は
以下の水着ショットを見ていただければ
一目瞭然だと思います
(芦川いづみさんの水着姿。雑誌「画報 近代映画」1956年8月号より)
どうでしょう?
水着なのに「セクシー」という感じがしません
とても上品なキュートさを醸し出しています
これが芦川さんの魅力の一つでしょう
芦川いづみさんの演技の魅力
➀病気を抱えても健気で清らかな心を持った女性
この魅力は特に川島監督の「風船」で
遺憾なく発揮されていると思います
この映画では小児麻痺を患っている
女性を演じているのですが
芦川さんにしか出せない透明感のある
天使のようで心優しく繊細な女性は
世の中のくさくさしたことを
忘れさせてくれて心が洗われるような
感覚になったり励まされたりします
「風船」以外では「佳人」ですとか
「陽のあたる坂道」ですとか
どこか身体に障害があったり病気のある
女性を演じていることが多いのですが
それでも健気で前向きなのですよね
見ていて「守ってあげたい」ですとか
「応援したい」という感情に駆られるのです
実際に「佳人」のときには小児麻痺の
お子さんを持つお母様方から手紙が
たくさん届いたのだとか
映画の力、俳優さんの力って
本当にバカにできないですよね
当事者の方々の心を打ったのですから
芦川さんの演技はすばらしかったのだと思います
②心は優しく芯は強く知的な女性
➀の魅力とは違う役柄も演じられるのが
芦川さんの魅力だと思います
作品で発揮されている気がします
例えば「あいつと私」などでは
芦川さんは女子大生で
裕次郎さんのからかいや議論のような
会話にも負けじとついていき
自己主張する女性を演じています
また「青い山脈」では芦川さんは
1949年版の原節子さんが演じた
学校や教育委員と戦い民主主義を
主張する先生役を演じているのです!
こういうときはもう顔つきからして
「しっかり者」の雰囲気を醸し出しています
また中平康監督の「あした晴れるか」(1960年)では
眼鏡をかけて難しいことを早口でまくし立てる
そんな女性を演じていますし
「喧嘩太郎」(1960年)では婦人警官の役で
裕次郎さんを投げ飛ばす場面まであります!
➀で挙げた作品の芦川さんとは随分違う
たくましい女性ですよね
でもそれでいて心優しいのです
この振り幅が芦川さんの演技力なのですよね
でも一般的に演技派とみなされていないのは
「凄みのある演技」を見せているわけではない
繊細な演技だったりとそれほど目立つ
演技ではない?からなのでしょうか
(井の頭公園を歩く芦川さん。雑誌「画報 近代映画」1960年4月号より)
芦川いづみさんの魅力(人として)
いい意味で欲がなく飾らない人柄
芦川さんは映画女優になることなど
端から考えていなくて
(こういう女優さん昭和には多いですよね)
川島雄三監督から映画界入りの誘いがあり
「ちょっとこの台詞を言ってごらん」と
言われても「嫌です」と答えたり
わざと台詞を間違えたりしたのだそう
芦川さんはSKDで友達と一緒に歌ったり
ダンスの稽古をしたりするのが楽しくて
映画界入りには乗り気になれなかったのです
しかし川島監督も引かずに
芦川さんに再度アタックして
ついに折れて「東京マダムと大阪夫人」に
出演することになりました
しかしそれにしても目をつけて
口説いた川島監督の勘もすごいですよね
「この娘はいける!自分が育てたい!」
と思ったのでしょうね
実際デビュー作の「東京マダムと大阪夫人」では
台詞はほとんど与えられていないのに
出番は多いですし物語の行方を左右する
重要な役柄なのです
このことから川島監督の芦川さんに対する
期待感が伺えます
それから見事にスター女優になったのですから
川島監督にはもう頭が上がらないですし
スカウトの才能もお持ちだったのかなと思います
日活に移籍したのがよかった
移籍した会社が日活だったことが
芦川さんがのびのびと女優活動ができて
よかったなと思います
日活は裕次郎さんを筆頭に
俳優さんを皆平等に扱い
決していじめなどが起こる環境に
しないように努めて
居心地のいい撮影所になっていました
先輩たち、特に北原三枝さんは
デビュー作のときから芦川さんに
親切に演技のやり方を教えてあげたりと
日活は優しい方が多かったのです
プライベートでも飾りのない女性
下はいろいろな女優さんに
オシャレについて尋ねた記事なのですが
芦川さんは服に関しては
「自分の気に入った洋服を気持ちよく着て
歩けるのが私はおしゃれだと思っている」
と言い、さらに化粧は「あまり好きじゃありません」
「アクセサリー類は一切嫌い」と発言されています!
(雑誌「近代映画」1957年5月号よりオシャレについてのインタビュー記事)
女優さんというと華やかで
いろいろな服などを着飾る
少し派手なイメージを持っていたのですが
お人柄だけでなくファッションに関しても
控え目でいらっしゃるとは
女優さんとして考えると意外な感じですが
芦川さんならちょっと納得してしまいます
ご自身で性格も「消極的」と仰っているので
目立つことがあまりお好きではないのでしょうね
スター俳優ではなかった藤竜也さんと結婚した
芦川さんについて語るとき
外せないのが藤竜也さんとご結婚されたこと
藤竜也さんは日活時代はスターではなく
脇役俳優でした
藤さん以前にお付き合いされていた
葉山良二さんは主役を張るスターだったのに
そうではない藤さんを選んで
格差婚だなんて言われていますけど
これがすばらしいことだと思うのです
結婚相談所などでは男性の年収や職業に
こだわる女性が多いそうですが
芦川さんは結果として藤さんと結婚して
幸せになれて今でも寝る前に握手しています
藤さんも日活退社後70年代にTVドラマ
「時間ですよ」でブレイクを果たし
現在も映画にTVに引っ張りだこの
俳優さんとなりました
芦川さんが無名だった藤さんと結婚した当初
こうなる未来を誰が予測できたでしょうか
川島雄三監督のことを「スカウトの才能がある」
と書きましたが芦川さんもまた
人を見る目があったのだと思います
芦川さんは本当に素晴らしい女性であり
美人、否、"佳人"の女優さんだと言えますね
藤竜也さんといつまでもお幸せに!
(横顔だけで可愛らしいとわかるショット。雑誌「画報 近代映画」1956年12月号)
参照:
雑誌「キネマ旬報」2012年6月上旬号
雑誌「映画秘宝」2013年12月号
高崎俊夫・朝倉史郎編『芦川いづみ 愁いを含んで、ほのかに甘く』