昭和寅次郎の昭和レトロブログ

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昭和俳優ファイル松竹編➀岡田時彦(後編)~もっと評価されてもいいスター&演技派俳優~

 

それでは岡田時彦さん前編につづき

後編に入りたいと思います

 

shouwatorajirou.com

 

ここでは岡田時彦さんについて

私が思っていることや

小津安二郎監督との関係

共演者の方や娘さんである

女優の岡田茉莉子さんのことも

触れたいと思います

 

もっと評価されてもいい俳優さん

 

小津安二郎監督の映画「淑女と髭」

についての記事でも触れましたが

岡田さんは一時はあの版妻さんを凌ぐ

人気を獲得するほどのスターでありながら

ギャング映画やメロドラマはもちろん

「淑女と髭」のようなコメディ演技もできるという

芸域の広い俳優さんです

 

それに2枚目の俳優さんが3枚目の役もできる

というのは珍しい部類に入ります

普通であればどちらか一方でしょうが

両方をこなせてしまうのは素直にすごいです

 

しかもサイレント映画は音声が出ないため

表情と動きだけで観客を魅了するという

いまの映画とはまた違った演技が

求められます

 

この時代に求められた演技をうまくやり遂げた

岡田さんはもっと評価されてもいいはずです

 

しかし映画雑誌などで評論家さんが選ぶ

俳優ベストテンなどではどういうわけか

名前が挙がってこないのです

これは寂しいですね

 

映画評論家の双葉十三郎さんは

自分はサイレントの時代から

映画を見ているからその頃活躍した俳優さんが

俳優ランキングに入っていないのを

残念だと仰っています

 

おそらく投票する評論家さんが

戦後に映画を見始めた世代で

青春時代に見た俳優さんに

思い入れがあるからだろうと

双葉さんは語っているのですが

評論家さんは専門家なのですから

もう少し映画史を俯瞰的に見て欲しいと

私などは思っています

 

でもこの手のランキングは

みんなが納得するようなランキングに

することはかなり難しいと思います(笑)

スポーツとは違いますからね

 

SNSでも以前そういったランキングに

文句をつけている方々がいましたから(笑)

 

オールタイムベストだけでなく

年代別ランキングをやったらどうでしょうか?

1930年代ランキングとかでしたら

岡田時彦さんの名前も出てきそうな気がします

 

共演者が語る岡田時彦

 

では共演していた俳優さんたちは

岡田さんをどのように見ていたのでしょう

ここでは女優の夏川静江さんの

インタビューを紹介します

 

夏川さんから見た岡田時彦さんは

 

「不思議な方、ですね

当時のことだから俳優と言っても

そんなに小奇麗にはしてませんよね、誰だって

岡田さんもそうで、撮影所のすぐ傍に

小さな家を持って、手拭いで鉢巻きなんか

ちょっとして、もう気楽に生活してる

それでいてやる役といったら

凄い神秘な役でしょう

で、あたくしなんか近寄り難くて

恐れをなしてってとこかしら

 

怖いくらい美しかったし

それにドンファンって噂も

なきにしも非ずだし(笑)」

 

(雑誌「ノーサイド」1995年9月号より引用)

 

という方なのだそうです

「怖いくらい美しい」とは

どれだけの美男子だったのでしょうね

 

もちろん今のイケメンとは顔つきなどが

違いますからカッコいいとは

思えない方もいるでしょうが

それは仕方のないことです

 

(夏川静江さん。キレイな女優さんですね)

 

娘/女優の岡田茉莉子が語る父・岡田時彦

 

岡田時彦さんは娘さんの茉莉子さんが

わずか一歳のときに亡くなってしまいましたから

当然のことながら彼女の記憶にはありません

 

それではいつどのようにして

茉莉子さんはお父様について知ったのでしょうか

 

茉莉子さんによると

演劇部に所属していた高校2年生のとき

同じ演劇部の友達と一緒に

たまたま見に行った映画が父の主演する

溝口健二監督の「滝の白糸」でした

 

当時茉莉子さんは父が

映画俳優だったとは知らずに

映画を見て帰宅しました

 

その日の夕飯の食卓で

茉莉子さんは見てきた映画について

家族に話したときに題名を口にした途端

皆黙り込んでしまったそうです

 

しばらくして母が

「あなたの見てきた映画はお父さんの映画よ」

とこのとき初めて父が映画俳優だったことを

茉莉子さんは知りました

言葉が出なかったそうですが

いつかそういう日が来る予感がしたのか

呆然としたのかよくわからなかったそうです

 

後日茉莉子さんは再び「滝の白糸」を

ひとりで見に行きました

そのときはもう父に会いに行くという

気持ちだったそうです

 

これが岡田茉莉子さんが父・岡田時彦

知った経緯です

 

小津安二郎監督との関係性

 

岡田時彦さんが初めて小津作品に

出演したのは「その夜の妻」からで

このときから親しい間柄になったのだそう

 

2人はともに1903年生まれの

東京の下町生まれで

ともに六代目尾上菊五郎の芸に心酔し

谷崎潤一郎芥川龍之介、里見弴の

文学に傾倒するなど

いろいろな共通点を持っていたそうです

 

珍しいランプを集めたりする趣味も同じで

本牧のチャブ屋にもよく遊びに行ったとか

 

監督と俳優さんという上下の関係というより

「同士」という感覚だったようです

同い年ですからね

 

小津監督は「岡田くんほどうまい俳優はいない」

とも語っていたそうなので

岡田時彦さんが松竹を退社し

若くして旅立たれたのは

小津監督にとってさぞかし寂しいこと

だったのだろうなと想像します

 

戦後の作品で娘さんの岡田茉莉子さんを

起用したとき、小津監督は茉莉子さんを

「お嬢さん」と呼んで可愛がったそうです

時彦さんの映画に「お嬢さん」という

作品があったからです

 

小津安二郎監督(右)と談笑する岡田茉莉子さん(左))

 

現存しない「お嬢さん」や「美人哀愁」が見たい!

 

しかし小津監督が時彦さんを起用した

「お嬢さん」と「美人哀愁」はフィルムが失われ

現在では見ることができません

 

(「美人哀愁」より。岡田時彦さんは鼻が高く西洋風のお顔立ちですね)

 

私はこの2作がすごく気になるのです

「お嬢さん」はナンセンスコメディとのことで

「淑女と髭」のように面白そうですし

「美人哀愁」はロマンティックな恋愛ものだとか!

あの小津監督が、です!

どうやら時彦さんの相手役の井上雪子さんに

惚れてしまって彼女の美しさを

撮ることに夢中になってしまったのだそう

3時間半もあるそうです(笑)

小津監督をそこまで惚れさせてしまう

女優さんとはどれだけ美しいのか気になります

 

しかし「美人哀愁」は一般的な受けは良くなく

小津監督自身も反省の弁を述べているのですが

笠智衆さんや厚田雄春さんなどはこの映画を

「美しい」と絶賛したそうです

気になりますねぇ…

 

谷崎潤一郎さんとの親しい間柄が気になる

 

時彦さんが自ら会いに行き

親しい間柄となって

時彦さんの葬儀では弔辞を読むほどだった

二人の関係性や交流エピソードなども

気になるところなのですが

調べても見つかりませんでした

残念です

 

東京国際映画祭で小津監督生誕120周年特集!

 

10月に開催される東京国際映画祭では

小津安二郎監督生誕120年を記念した

豪華な特集上映が開催されます

 

eiga.com

 

国立映画アーカイブさんでは

初期のサイレント作品が上映されますので

ご興味のある方は足を運んでいただき

小津監督がその実力を褒めちぎり

友情を育んだ岡田時彦という

スター俳優にも注目してみてはいかがでしょうか

 

もちろん娘さんの岡田茉莉子さんも

 

参照:

雑誌「キネマ旬報」2000年6月上旬号

岡田茉莉子著『女優 岡田茉莉子