- 今度の映画紹介シリーズは「就活」!
- おおまかなストーリー
- 映画の感想
- ➀大学卒業後に就活をしていたことに驚き!
- 時代背景
- 映画の感想
- ②卒業したてなのにもう妻がいる!
- ③小津監督のギャグセンスがいい!
- ④完全版が見つかっていないのが残念
- この映画のエピソード
- ➀タイトルの「大学は出たけれど」は当時の流行語に!
今度の映画紹介シリーズは「就活」!
今度の映画紹介シリーズのテーマは
ズバリ「就活」です!
これは世代によって思い出は
つらいものから楽勝の思い出から
さまざまあるかと思いますが
昭和の就活とはどんなものだったのか
これも64年間ある時代ですから
実にさまざまなのですが
見て驚いたりいろいろ考えて
いきたいと思います
まず第1回目の作品は小津安二郎監督の
「大学は出たけれど」(1929年)です!
(映画「大学は出たけれど」より。高田稔さん(左)と田中絹代さん(右))
「大学は出たけれど」だなんて
中途採用のお話?と思いきや
これが新卒採用のお話なのです!
この映画の時代には就活は
大学卒業後に行われていたのです!
いまの時代から考えると
とても信じられないことですが
ほかにも驚きがある作品です
どのような映画なのでしょう?
おおまかなストーリー
野本(高田稔)は求職中の身
ある会社を受けに行くが
「申し訳ないが欠員はない
受付ならありますよ」と言われる
大卒である野本はプライドから
「私は大卒です」と言って断り
面接会場を後にする
野本の自宅には妻(!)の町子
(田中絹代)と上京してきた母親がおり
母親が来ている手前、野本は
自分が無職であることを隠していた
母親が安心して帰った後
野本はついに妻に自分が
無職であることを打ち明ける
妻も仕事をしていない
夫婦生活を営む以上、収入を得るために
何としても仕事を見つけなくてはいけない
野本の就活は果たしてうまくいくのか
映画の感想
➀大学卒業後に就活をしていたことに驚き!
まずは何といっても
映画のタイトル通り
大学卒業後に就活をしていたことに
ただただ驚きましたね
初めてこの映画を見たときは
私は大学生で就活は
リーマンショックの影響から
非常に厳しくなかなか内定を取れず
わざと単位を落として
就活のために留年する方もいました
メディアも厳しい就活事情に注目し
NHKで特集番組をやって
新卒一括採用の是非
なぜ新卒でないといけないのか
就活は大学卒業後に「就活生」
という身分を与えてやればいいではないか
などということも議論されていました
ところでなぜこの映画では
卒業後に就活をしているのでしょうか
時代背景
この映画が封切られた当時は
「学生が学校における学業を等閑にして
就職口あさりに熱中するなどは
何としてもその本分に反した事である」
とされ、「新卒業生の採用銓衡(選考)は
すべて卒業決定後にこれを行う事」が
各大学、専門学校、各官庁、企業で
申し合わせがされていたそうです
(難波功士著『就活の社会史』を参照)
これはすばらしい申し合わせですね!
本来学生が学業に打ち込むことが
本分なのに企業さんがズカズカと
入り込んできてインターンも含めると
1年以上就活に大学生活を奪われる現状では
以下の記事に書いてあるように
学生は「就活疲れ」を起こしてしまいます
それからこれほど早期から
長い選考を経て厳選して採用しても
「配属ガチャ」を理由にすぐに新入社員に
辞められてしまっては
採用に費やした時間やコストが
無駄ではないのかな?とも
思ってしまいます
映画の感想
②卒業したてなのにもう妻がいる!
このことについても
すごく驚きましたね
2人が結婚した経緯が
語られていないため
事情はよく分からないのですが
私の推測では
➀母が故郷に帰るまで
妻にも無職であることを
隠していたことを考えると
就職が決まっていると嘘をついて
お見合いなどをしたのではないか
ということと
にも見られるように、かつては
大学生が非常に珍しい存在で
学生であるというだけで
丁重なおもてなしを受けていることを
考えると、将来有望なエリート
サラリーマンとして
しっかり稼いでくれると考え
就職がきまっていない段階でも
結婚を決めたのではないか
とも推測できる気がします
戦後の加山雄三さんの映画
「若大将シリーズ」でも
社会人である星由里子さんと
大学生の加山さんの恋愛という
今では考えられない組み合わせの
カップルも見受けられました
ちなみに「大学は出たけれど」のころの
大学進学率は5%程度で
大卒者の就職率は30%だったそうです
(ちなみに大学生のほとんどが
男子だったそうです)
(難波功士著『就活の社会史』
フィルムアート社編『小津安二郎を読む』
を参照)
就職難だった原因は
昭和恐慌という大不況で
大卒者ならずとも失業者が
大量に出る時代でした
以下の記事でチラッとふれています
③小津監督のギャグセンスがいい!
主人公の男性が妻の田中絹代さんに
自分がまだ就職が決まっていないことを
打ち明けるときに「サンデー毎日」
という雑誌の表紙を見せて
「俺は毎日が日曜日なんだ」という
ギャグが面白いです
この映画がサイレント作品であることを
活かして台詞だけでなく
視覚でも訴えるというのは
サイレント作品作りのお手本のような
演出ですね
④完全版が見つかっていないのが残念
この映画は冒頭部分と結末部分しか
フィルムが残っておらず
中間がすっぽり抜けていて
本来は70分くらいあるにも関わらず
わずか10分程度しか
見ることができません(泣)
(これも映画の一場面なのでしょうがこのシーンは残っていません)
ただし脚本は残ってるので
ストーリーだけは現在でも
わかるようです
その欠落した部分のストーリーでは
貯金が少なくなってくると
夫婦喧嘩をしたりするみたいです
それから妻は「代わりに私が働くわ!」
とばかりに就職を決めて働き出るも
勤めがカフェの女給とわかると
夫が怒ってまたまた夫婦喧嘩
その後は結末に入るので
書けませんが妻が女給として働いていると
わかったときに夫が怒るのは
女給は差別されていた職業だからです
若い方のために解説しますと
女給はいま風に言えばウェイトレス
なのですが仕事内容にキャバクラ的な
サービスが女給には含まれていたのです
この映画のエピソード
➀タイトルの「大学は出たけれど」は当時の流行語に!
この映画のタイトル「大学は出たけれど」は
当時は流行語にもなったそうです!
このタイトルは近年でも引き合いに
出されることがあり
私がこの記事を書くにあたって参照した
『就活の社会史』という本の副題にも
使用されている程です
でも現在は在学中に就職を決めることが
常識になってしまっているので
同じタイトルで映画を作るとしたら
大学を出て働いているけれども
奨学金の返済に追われていて…
という内容に置き換えたらどうでしょう?
という駄文はこのくらいにして
就活映画シリーズ第1弾記事を締めますが
就活が大学卒業後に行われていたこと
そしてそうすることが大学と企業との間で
申し合わせがされていたことが
何といっても驚きですよね
次回は第2弾映画を紹介するつもりです