- おおまかなストーリー
- ドラマの感想
- ➀ありふれた不倫ドラマと思いきや…脚本に打ちのめされる!
- ②どの登場人物にも肩入れしない作り方が山田さんらしい
- ④昭和の高校生はコミュ力が高い!
- ⑤昭和の大学生の大人っぽさにも驚き!
- ⑥専業主婦が見直されているのはいいけれど…
豪雨災害に遭われた方がこのドラマをご覧になるのは
過去のトラウマを思い起こすおそれがあることを
あらかじめおことわりしておきます
久しぶりの更新です
更新が遅れた理由は
今回紹介するドラマに加え
もうひとつドラマを見ていまして
それが月曜日から金曜日まで
放送されていて録画を消化するのが大変で
新しい記事が書けなかったのです
という個人的なことは
置いておきまして
昨年亡くなられた昭和を代表する
名脚本家・山田太一さんの
「岸辺のアルバム」(1977年)について
感じたことを綴っていきます
おおまかなストーリー
上智大学へ通う娘と受験生の
息子と商社マンの夫(杉浦直樹)を持つ
主婦の田島則子(八千草薫)は
何不自由なく家族とともに
暮らしているようで
少し退屈もしていた
そんなとき見知らぬ男から
電話がかかってくるようになり
最初は警戒していた則子も
次第に心を開き、電話のやり取りも
続いて、ついには実際に
渋谷の喫茶店で会う約束をした
そうして実際に会ってみると
電話の男(竹脇無我)は2枚目だった
しかも真面目で、何も手を出してこない
しかし2人が喫茶店から出てくるところを
偶然見たと、息子は人づてに聞いて動揺する
その男とはどんな関係なのかと
電話で話すことと喫茶店で会うことを
繰り返すうちにあるとき
則子は男から「浮気の提案」をされる
初めは一線を越えることを断った
則子だったが、次第にラブホテルで
会うようにもなる
しかしホテルへ向かうところを
息子に目撃され、尾行され、
息子を激しく動揺させてしまう
夫の謙作は毎晩仕事で遅く
しかも酔っぱらって帰ってきて
ろくに夫婦の時間が取れない
会社の経営も傾いており
夫はこれまでとは違う仕事も
するようになっていったが
詳しいことは話したがらない
娘も何やら怪しげな友人を作り
翻訳研究会といいながら
何やらよくわからないアルバイトで
毎晩遅く、両親に話したがらなかった
息子は受験生だというのに
ハンバーガーショップの女性店員と
不思議な付き合いをしていた
一見平穏に見える家庭で
誰もが秘密を持っていた
そして徐々にこの一家に波風が立つ
ドラマの感想
➀ありふれた不倫ドラマと思いきや…脚本に打ちのめされる!
ドラマの序盤はサラリーマンの夫に
専業主婦の妻に、2人の子ども
大学生の姉と受験生の弟
ごくありふれた平凡な昭和の
核家族の物語のように思えます
まったく会ったこともない男と
八千草薫さんが不倫に走るのは
少し変わったきっかけだと思いますが
ひとたび不倫が始まってしまえば
時間を持て余した主婦が不倫するのは
どの時代にもどこの国にもありそうな物語
という印象を受けます
しかし夫は会社が傾きつつあり
今までとは違う種類の仕事を
始めた様子だけれども
仕事のことは詳しく話そうとしない
娘も大学やアルバイト先で
何をしているのかほとんど何も話さない
受験生の息子も学校で奇妙な
行動をしたり、妙な女の子と
接したりして、何を考えているのか
よくわからない
少しずつ家族の秘密が明らかにされ
あるときそれが伏線となって
予想もしなかったことが起きて
打ちのめされました
②どの登場人物にも肩入れしない作り方が山田さんらしい
ストーリーのところでは一応
八千草薫さん演じる主婦の視点から
書いていきましたがこのドラマには
特定の主人公らしい主人公は
特にいないのです
これは山田太一さんのドラマの特徴の
1つでして、登場人物のだれにも
肩入れせずに、感情移入をさせる
余地も作らず、一歩引いたところから
この家族を観察しているような感じがします
そうして登場人物たちに議論させて
「この主張わかるなぁ~」
「でもこの反論も一理あるなぁ」と
観客にあれこれと考えさせてくれます
この「岸辺のアルバム:で言うと
登場人物がそれぞれ秘密を抱えているのは
家族といえども、否、家族だからこそ
言えない秘密はあるよなぁと思いつつも
でもそれぞれがバラバラに生きているようで
ひとつ屋根の下で暮らしているだけで
この一家は本当に家族といえるのだろうか?
「男はつらいよ」シリーズのような
登場人物たちが本音をぶつけ合うような
人間関係の方がよほど家族らしくないか?
とも思えてきて、家族というものについて
あれこれ考えを巡らせてしまいました
今回も私は「山田ワールド」に
完全にヤラれてしまいました
④昭和の高校生はコミュ力が高い!
このドラマの一家の息子さんや
そのお友達もそうですが
年代が上の大人の人たちにも
きちんとした言葉遣いで
接することができていることに
とても驚かされました
しかしこれは現代の若者がダメ
といことでは決してなくて
ケータイやスマホがなかったことが
大きかったと思われます
そういったコミュニケーションツールが
なかったために人と話す機会が多く
自然と対人コミュニケーションスキルが
磨かれる環境にあったのだと思います
最近の新入社員さんは
電話対応を苦手にしていたり
嫌がる傾向にあるそうですが
それはスマホという便利な機器を手にして
それと引き換えに対人スキルが
失われただけでしょう
⑤昭和の大学生の大人っぽさにも驚き!
上智大学に通う娘さんもそうですが
そのお友達もとても大人びていて
大学生というよりもOLさんのような
雰囲気がしました
見た目の点でも言葉遣いの点でも
世の中がどんどん便利になりますが
それと同時に失われたものもあって
便利さばかりを追求していくのは
果たしていいことなのかと
感じてしまいました
最近オーストラリアでSNSの利用が
16歳未満は禁止ということが決まった
というニュースもありましたし
⑥専業主婦が見直されているのはいいけれど…
最近アメリカで専業主婦が
見直されているという以下の動画を
今年たまたま見つけました
この動画で議論されている
「専業主婦という生き方も認めてこそ多様性」
「女性も外に出て働けと押し付けないで」
という主張には賛成ですし
男性が"主夫"になるという選択肢が
あってもいいと思います
人それぞれが生き方を選択できる
寛容な社会であって欲しいですが
しかし現代の日本社会で専業主婦として
生きるには"リスク"があると
「岸辺のアルバム」を見て感じました
それはまず…
・配偶者が長時間労働だと不倫する危険がある
ということがあります
配偶者が仕事漬けで毎晩遅く
夫婦の時間があまりないと
1人の時間が多くなってしまい
ふとした寂しさから不倫をしてしまう
というおそれがあると思います
次に
・賃金が低くて共働きをせざるを得ない
現代の日本の若い男女は
非正規雇用で働く人も多く
賃金が低く抑えられている
という現状はみなさん
よくご存知だと思います
・企業寿命が短く片方が失業したら…?
現代社会はITの発展に伴い
社会の変化のスピードが目まぐるしく
昭和と比べて企業寿命が短くなっており
長年同じ会社で勤め続けることが
ますます困難になっていくことが
予想されます
そうした社会に生きるなかで
片方が家庭を守っている場合
働き手を担っている配偶者が
失業した場合、ともに無職
ということになり
再就職までの間どうするのか?
再就職先の賃金が低かったら?
という問題は無視できないと思います
これらの問題をどうするのか
ということへの道筋が見えないと
専業主婦という生き方を選ぶのは
難しいのが現状だと思われます
というようにドラマの内容から
現代の夫婦の生き方まで
いろいろなことを考えてしまいましたが
このように見る人の心を揺さぶるのが
山田太一さんの作品の醍醐味だと思います
今回の記事はこれにて終了です
次回はいつになるかわかりません…
ユリイカ(2024 4(第56巻第5号)) 詩と批評 山田太一
- 価格: 2090 円
- 楽天で詳細を見る